発掘したのでちょっと載せてみる。
ミツバ編の最後あたり。
「辛ぇ」からの派生。
銀時の一人つぶやき。
「辛ぇ」
激辛せんべいをかじりながら呟いてみた。
もたれかかった給水タンクは冬の冷たさを助長させてくれる。
ああ、死の温度だ。
あいつはずっとせんべいを食べ続けている。
律儀な野郎だ。
あの女は全部知ってたぜ。
何をかって?
自分の旦那が何やってるかも。
自分はもうじき死ぬことも。
俺がそれを知っていたということも。
こういう時だけ働いてくれる感とやらに苛苛する。
どうせならパチンコするときに働いてくれよ。
そしたら、新八に怒られなくて済むんだから。
まだせんべいを食べる音が聞こえる。
まじでか。
こんな辛いもん、よく食えるよな。
惚れた女か。
よくわからねぇけど。
最期ぐらい、立ち会えばよかったのによ。
死んだら二度と会えねぇってホントだぜ?
沖田君も大変だよな。
葬式って、悲しんでる暇なんかねぇモン。
あのじいさん看取ってやったときもそうだったな。
俺たちはあんまり関わらんかったが。
みんな事務的に片付けておしまい。
けど最後の付き合いに骨は拾ってやった。
無縁仏だから、施設の人間が持ってったけど。
焼かれた直後の骨ってスッゴク熱いんだよな。
6月半ばだったから、火葬場は熱気ですごかった。
今は冬だからちょうどいいか。
あの熱さを抱えて帰るのか。
死んだのに、骨なのに熱いんだぜ。
ん?なんだか身体が熱くなってきた。
あー、せんべいのせいかな?
まだ食ってやがる。
たしかにあの女はいい女だったよ。
強さも、強(したた)かさも持ってやがった。
女って生き物はすげーよな、ホント。
恨み言一つ零さずにいきやがった。
全部知ってやがったくせに。
俺たちは、だから忘れることなんて出来やしねぇ。
そんなことしなくても、忘れやしねぇよ。
一袋、きっちり食い尽くす気だぜ、あいつ。
辛いのがそんなに好きだったのかよ。
もう一つの意味を込めて送ったんだろうに。
全部知った上でも、お前ら本当に。
やめた。
感に憶測に重ねたところでどうってなるわけじゃねぇ。
きっちり弔ってやるのが筋だ。
手に持ったせんべいを見つめてみた。
一口だけ齧ってみたせんべい。
唐辛子が、赤色をきっちり主張してやがる。
正直、食いたくねぇよ。
俺は甘いモンが好きなんだ。
だけど食ってやるよ。
アンタの弟と大親友だって言っちまったからな。
諦めて、口に放り込んだ。
「辛ぇ」
じゃあな。
これで仕舞いだ。