ノラ話『死人に口なし』
あれだ、もう考えねぇ、と言ってた話が
どんどんどんどん出来あがっちゃって。
吐き出さないと、ちょっとヤバかったんで吐き出してみる。
すちゃらかがきなので、繋がってないですが。
そういやハートフルって和製英語なんだってね。
本当の英語の意味でのハートフル話。
傷ついてんのは誰だ？
気がつけば、私はここに立っていた。
激しく煙るほどに降る黒い雨の中。
『私』を抱えて、叫ぶ、双子の弟の姿をじっと見ていた。
『あれ？』
私がここにいるのに、『私』の身体は弟に抱きかかえられている。
すなわち、私が二人いる。
『銀時・・・？』
目の前にいる、弟に手を伸ばしてみる。
そして
その手は弟を通り抜けた。
『はい?』
何度も何度も、弟に手を伸ばす。
だが、弟に触れることはできなかった。
私を抱きしめ叫び続ける弟、満足そうに笑ってる『私』。
そして触れられない身体。
そうか。
合点がいった。
私は死んだのだ。
夕暮れ時。
庭に白い影を認めて、土方は瞠目した。
白い着物を着た、白い髪の女だった。
白い髪に、一瞬老女かと思ったが、だが顔を見て、若い女だとわかった。
牡丹の花が咲き乱れた、艶やかな振袖だ。
ふわふわとゆるく波打った白い髪。
そのような髪を、最近どこかで見たような。
女がこちらを向いた。
その途端、身体が動けなくなった。
『副長さん』
女が近付いて、目の前でふわりと笑った。
この暗さでもわかる、夕焼けのようなきれいな赤色の眼。
『うちのきょうだい、いじめないでね』
夕陽の残照が、完全に沈み
目の前で、ふっと女の姿が掻き消えた。
土方はポロリと、タバコを落とした。
そして悲鳴が上がった。
夕暮れ時。
うす暗く、互いの姿もぼんやりとしかわからず
「誰そ彼」と尋ねる、黄昏時とも言われる。
そして、幽霊や物の怪に出会う、逢魔ヶ時とも言われている。
『姿見せんのって結構疲れるんだよ』
脱力して座り込んでいる子どもに、辰五郎はそう返した。
彼女は胡乱気な視線を向ける。
『幽霊なのに・・・？』
『あれだ、魂が疲弊するんだろ、たぶん？』
丑三つ時とか、逢魔ヶ時とか
幽霊や化け物が出ると一般的に言われている時間帯が、最も顕現しやすいそうだ。
そう信じられているから。
信じる力というか、信仰というか。
そういうもんってすごいエネルギーになるらしい。
『じゃあ、お盆も・・・？』
『帰ってきたやつらが、そこらじゅうにわんさか溢れかえるぜ？』
あの世逝きたいならともかく、ここにいたいんなら一緒に混ざって、帰っちまうんじゃねぇぞ？
と辰五郎は笑い、子どもの頭を乱暴に撫でた。
頭をぐしゃぐしゃにされながらも、彼女は思った。
生前に、見えてなくてよかったと。
なにせ、自分たちは、お化けが大嫌いだったから。
聞き覚えのある声に
ぼんやりと、残った視界に映ったのは煌めく白。
なんだ、無事だったのか。
よかった。
急速に、感覚が消えていく。
「・・・・・・！！？」
あいつが、何かを叫んでいた。
私にはもう、喋る力さえ残っていなかった。
視界も消えた。
だから、せめて。
彼女はふわりと笑って、そして最後の息を吐きだした。
雨が、降っていた。
黒い黒い雨が。
その中で、叫んでいた。
白い子供が一人。
もう一人の子供を抱えて。
眦を伝う黒い雨雫に
透明な雫が紛れ込み
一緒になって、頬を伝っていった。
ねえ、かみさまほとけさま。
もし、そんな存在がいるのなら。
どうかこの魂と引き換えに。
風を吹かせて、雲を呼んで、雨を降らせてください。
空が知らない雨雫を、隠してやってください。
もう、私には
この子の涙を拭うことなど、出来ないのです。